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創業からの理念をあらためて
全従業員で共有することで、
「2030年ありたい姿」の実現を目指すとともに
財務・非財務両面の企業価値向上を図っていきます

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今回、統合報告書への移行にあたり、日本化学工業に集う従業員全員が、改めて企業理念や目指す方向性を共有できるようにするため、「現代経営学の父」と言われるドラッカー氏が提唱したMVV(Mission、Vision、Value)という概念に当てはめて再整理を行いました。社会における当社の存在意義(Mission)を「人の絆、自然環境と融和した技術の開発を大切にし、化学という無限の可能性で夢を実現する」とし、目指す未来(Vision)として「2030年ありたい姿」を定め、Mission、Visionを達成するための価値観(Value)をサステナビリティ基本方針、行動指針、4つの信条で表しました。
このMVVを全従業員が共有し自分ごと化することで、当社グループが一丸となってサステナブルな社会を実現していくことができると考えています。企業理念に込められた思いをつなぎつつ、現代社会に存在する様々な課題を解決する新しい価値を生み出していきます。

当社を取り巻く2023年度の事業環境は、世界的な半導体不況の長期化や物流混乱などにより生産調整、納期調整、在庫の積み増し等を余儀なくされるなど1年を通じて悪化しましたが、その中でも売上高は前期比で1.2%増の385億3千8百万円を確保し、営業利益は前期比75.2%の大幅増となる22億6千4百万円となりました。これは、前年度の収益低迷の反動と価格転嫁が想定以上に受け入れられたことが要因であると分析しています。
新たな中期経営計画の初年度となる2024年度は、昨年に動きの弱かった電子セラミック材料や高純度電子材料も徐々に回復していく見込みであることから、売上高が前期比4%増の400億円、営業利益が28%増の29億円を見込んでいます。なお、この新中期経営計画は、MVVの「Vision」である「2030年ありたい姿」からバックキャスティングして作成しています。2030年まで事業を継続する際のリスクと機会を分析し、中長期を見据えた計画を実行することで、激しく変化を続ける事業環境に対応しながら会社を発展させていきます。当社のマテリアリティには、こうした未来を想定した考え方が反映されています。

長期的な企業価値向上と足元の収益性向上を同時に達成していくためには、自分たちの「強み」を活かした戦略を実行していく必要があります。日本化学の強みは、お客様の期待を上回る性能・品質の化学製品を開発し、それらを安定的に製造・供給してきたことにほかなりません。近年人々の生活は豊かで多様になり、世の中の化学製品に対する要求も年々高度化してきましたが、その要求にしっかり応えることができたからこそ130年もの間事業を続けてこれたのだと思います。
今後、この強みを長期的に維持していくためには、まだ顕在化していないニーズを見つけ出すリサーチ力と社会課題を速やかに解決する技術力に磨きをかけていくことが重要です。それを可能にするだけの多様な人材の確保と育成が欠かせません。また、社内の人的資本の充実にとどまらず、「産学連携」「産産連携」など外部とのコラボレーションも積極的に進めオープンイノベーションも活用して、当社が保有する技術基盤をベースに新たな領域へと踏み込んでいく必要があると思っています。また、外部連携を通じて当社の従業員がより多彩な情報に触れる機会を増やし、それが画期的なイノベーションにつながるという新たなサイクルを生み出すことも視野に入れています。
当社の研究開発体制は、大きく分けると「現状主力製品のアップグレード」と「今後収益の柱とすべき新製品の開発」の2つから成り立っています。どちらも大事な役割ですが、まずは足元の収益を確保できなければなりませんので、最新の試験設備や分析機器の導入などに対する投資を厚くするなど現行品のアップグレードへの積極的なサポートを継続していきます。一方、新製品の開発においては、まずはお客様の要望に耳を傾ける必要があります。その要望の中には、脱炭素技術に関わるものや、自動車の自動運転に欠かせない要素など、長期的な視点で解決すべき社会課題につながる話が多くなってきました。現代の企業経営において収益の向上とサステナビリティを一体的に考えることがいかに大事かを実感しています。
今後も「主力製品のアップグレード」と、将来の社会課題解決につながる「新製品開発」、この2つを開発の軸として、これまで以上に当社の「強み」を発揮していきたいと思います。

投資戦略の基本的な考え方も研究開発と同様です。現状のポートフォリオの中で「まさに今が好機」と思える事業には積極的な投資を行います。同時に、将来を見据えた新規事業への投資もしっかり行っていくわけですが、こちらは投資をすればすぐに利益につながるわけではなく、柔軟性を持って進めることが大切だと考えています。
長期的な企業価値向上という点から投資戦略を考えた場合、まず思い浮かぶのは人的資本に対する投資を厚くしたいということです。当社のようなものづくり企業においては、長期的な企業価値向上を図るうえでイノベーションは欠かすことのできない大切な要素です。そして、そのイノベーションには、社員のモチベーションが大きく関わってきます。これは研究開発部門に限った話ではなく、日本化学工業で働くすべての従業員が前向きに仕事に臨める職場づくりへの投資を継続していかなければなりません。仕組みや制度の整備はもちろん、研修や教育も含めて、必要なことには惜しまず投資したいと思っています。人的資本経営という意味では、特にここ3年ほど、私自身が強いこだわりを持って取り入れた「コーチング」という手法が浸透してきています。この成果も活かしつつ、まずは日本化学工業を良い組織にし、従業員の働きがいを向上させ、それが個々のパフォーマンスにつながり、結果として組織全体が強くなっていく、そうした好循環を作り出すことが、トップである私の責務であると認識しています。
また、成長分野への設備投資も意欲的に行っていく計画で、具体的には積層セラミックコンデンサ向けの電子セラミック材料や高純度電子材料などです。新中期経営計画では、3ヵ年トータルで200億円の設備投資を見込んでいますが、そのうち約3割の65億円を成長分野への投資にあてるつもりです。

これだけESGの重要性が叫ばれる世の中になっても、企業の不祥事に関するニュースが連日のように報じられています。また、デジタル化が進んだ現代を象徴するように1つのシステム障害によって業績予想を下方修正した事例も目にするようになりました。会社経営には様々なリスクが伴いますが、その多くがサステナビリティ経営と密接につながっていることに気づきます。
当社は、不祥事が起きない企業風土を醸成するため、倫理規定とコンプライアンスに関する基本姿勢を定め、行動指針を明確にし、倫理委員会・業務監査室を中心として従業員に対する啓発を進めるとともに、経営層によるチェック体制を強化しています。しかし私自身は、こうした制度整備や仕組みの構築は最低限行うべき当たり前のことで、企業風土として定着させるためには、組織内および組織間のコミュニケーション促進と信頼関係の醸成こそが何より重要だと考えています。現場の社員が「決められた手順を踏まなければ」と思い込んでしまう以前に、「困っています」「悩んでいます」という声を出せる雰囲気を各組織・職場、さらに言えば会社全体で築くことに心を砕きたいと思います。
情報セキュリティに関しても、基幹システム系のセキュリティ強化を実施するとともに、アンチウイルスソフトの高度化やネットワーク監視体制の強化を継続的に図っています。2023年度には、なりすましメール対策としてDMARC設定を実施しました。
労働安全衛生については、ESGを包括するサステナビリティ経営に真摯に取り組むことで、日々の安全対策が徹底された事故を起こさせない組織にできると考えています。
一方、環境面では2022年度から、当社製品群のうち環境課題の解決に貢献する製品、環境改善への貢献が期待される製品を「環境貢献製品」として認定する制度を設けました。特にその中で低電力消費型の電子機器やEV向け積層セラミックコンデンサ原料として使われる「パルセラム」と「高純度炭酸バリウム」の販売量が増えています。マテリアリティのKPIに定めた全売上高に占める環境貢献製品比率10%以上という目標も達成しました。また、自社の事業活動におけるCO₂削減では、2024年度の設備投資案件からICP(インターナルカーボンプライシング)の考え方を導入しました。ICPによってCO₂排出量を見える化し、今後の設備投資の判断指標にしたいと考えています。
2023年度の外部評価とイニシアチブへの取り組みではCDPやEcoVadisに回答し、CDPの気候変動で「B」スコアを、EcoVadisでシルバーメダル(全評価対象企業の上位25%に該当)を取得しました。2024年3月には「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」にも参加しています。

おかげさまで日本化学工業は130周年という新たな節目を迎えることができました。これからもサステナビリティ経営に取り組み、100年後の未来も変わらずに社会から必要とされている会社であり続けたいと思っております。これからは、ステークホルダーの皆さまにこの統合報告書を通じてサステナビリティ経営に対する考え方を積極的にお伝えしてまいります。今後とも、変わらぬご支援をお願い申し上げます。

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